うえまち「一言自慢の景色」 of 上町台地の地域情報紙『うえまち』

一心寺長老・高口恭行 都市計画家・田端修
一言自慢タイトル.jpg

(11)                            2016年6月号

NEXT21外観写真(南正面).jpg大阪ガスエネルギー文化研究所提供
 NEXT21のある風景

 地下鉄谷町六丁目駅から東へ10分の所にこの実験集合住宅「ネクスト21」があります。1993年に大阪ガスによって建てられた6階建て18戸が集合した建築は「マンション」と見えなくもないのですが、よく見ると全体がミドリだらけ、スキマだらけで通常のマンションでないことは一目瞭然です。
実はこの建築は立体的な長屋としての「アパート」ではなく、立体的な骨組みの中に積み重ねられた、いわば「庭付き一戸建て住宅の実験装置」といった趣旨に基づいています。住人は大阪ガスの社員の中から希望者を募り、それぞれの注文に基づいて「独立住宅」として住戸を造り直し、そこへ5年間住んでみてさまざまな実験と成果を研究する…。
 テーマとしては「人と人のつながりの創出」、「人と自然の関係性の再構築」、「省エネ・スマートな暮らしの実現」などだといいます。より良い未来の住宅様式、生活様式を模索するこの試みは誠に貴重であり「自慢」に値することは言うまでもありませんが、実際、花が咲き、 鳥が集うこの空間は実に魅力的な一画です。
 この実験が始まって以来、すでに23年が経過しました。この実験成果に基づいてこのシステムがもっと拡大すべき時期に来ているかもしれません。期待して注目し続けたいものです。

(10)                            2016年5月号

1605一言自慢.jpg夕陽丘パンフ賞 「花影」(河井要祐さん)
 花見文化にフォーカス

 春先の新聞を彩る名物コーナーに、桜だより(開花状況や見頃の時期など)があります。そこでは、花の名所とされる各地の景勝地とか公園がクローズアップされますが、花見客はそんな場所だけに集まるわけではありません。夕陽丘でいえば、宴の席であふれるような広い敷地は限られていますが、桜樹数本が花を開くだけで人が集まる、そんなスポットがあちこちに出現します。規模を問わず、桜の花があり、周りの環境が少々整っていればどこでも、見物の場所になり、人々が立ち止まる。それが日本の都市の春景色なのです。
 善龍寺の築地塀から張り出している桜景色もそんな中の一つです。河井要祐さんの「花影」は、まさに満開の桜に画面の上半分を使いつつ、口縄坂を往く男女がその足元では思わず天を仰いでしまう。まさに春ののどかさをそのまま写し取ったといえる仕上がりですね。その2人の行く手に、昼時近くの日差しが落とす影が柔らかく広がっています。塀に沿う 影と坂道の路面に落ちる影がちょうど90度に面白く折れ曲がっていますが、この辺りから強まる口縄坂の傾斜に合わせて築地塀頂部が段状にせり上がる丸瓦の並びに着目するなど、時と場所の組み合わせを待ち構えて焦点を絞った様子がうかがえます。
 口縄坂に日本都市の花見文化を見いだした写真ですが、そんな景色を夕陽丘にさらに増やしていきたいものですね。

(9)                            2016年4月号

1604一言自慢の景色.jpg
 円窓のある土塀風景

 「一言自慢」と題して「自画自賛」かいな! と叱られそうですが、国道25号に面する一心寺の土塀は「結構カッコいい」と言っていただくことがママあります。この白壁はもともと 25号の傾斜なりに段々状の形だったのですが、奥に見える金色の「相輪」の建物(一心寺受付堂)を建て替えるにあたって、25号からの「景観」を考えてこのような形にしました。通常、道路の景観は「直線と面」ばかりで構成されるわけですが、そこに「曲線と丸い穴」を登場させると突然気分が変わって、「オモシロイ」と言うことになりはしないか…そんな思いつきで…。
 ただ私的には、奥のキンピカの「相輪」に関わるチョットした思い込みがあります。
 そもそも通常の多宝塔の相輪は「九輪」と言われる9つの輪と軸で構成されますが、このキンピカは縦長ピラミッド型で、実は仏教の想像上の世界像である「須弥山(しゅみせん)」と言う巨大な山を表しています。この山の麓の海に浮かぶ南の島がわれわれの「人 間界」であると考えられています。この海の果てには巨大な鉄の丸い堤防があって、この世の果てという意味で「金輪際」と言います。この金輪の下には渦巻く水の輪「水輪」 があり、さらにその下に渦巻く風の輪「風輪」がある…。土塀に開けられた丸穴は実はこ の「風輪」のつもり…。とんだ思い込みですが…。

(8)                            2016年3月号

一言自慢.jpg



 建築家・高松伸の「パレ・ロワイヤル」

 この「一心寺坂」風景はいつもの夕陽丘写真コンテスト入選作ではありません。実は私自身が撮ったもので、本来の企画外ですが「うえまち一言自慢の風景」となるとどうしても紹介したくなり、自画自選で入れてしまいました。
 場所は一心寺の南側。茶臼山との間の谷のような坂道で、写真の突き当たりは動物園。左の石垣は茶臼山裾。右は一心寺です。写真には見えていませんが、突き当たりの向こうに通天閣が見えます。
 推薦の理由は、実はこの坂道がSの字を2つつないだ形の4つのカーブでできていることです。坂道は、上るにしろ下るにしろ高さが変わることによってどんどん風景が変わるところに面白さがありますが、曲線についても同じことが言えるわけで、多くのカーブした坂道が愛される理由は「立体的な風景の展開」にあると思われます。
さて、この坂道は江戸時代に地図が初めて描かれた最初からこの場所に記録されていました。当然、大坂夏の陣でこの辺りが激戦地となった時には両軍激突の谷であった可能性があります。このところ天王寺公園が美しく整備されるなかで、人気スポットの一つになるだろうと楽しみに注目しているところです。

(7)                            2016年2月号

1602一言自慢.jpg


 一心寺坂

 この「一心寺坂」風景はいつもの夕陽丘写真コンテスト入選作ではありません。実は私自身が撮ったもので、本来の企画外ですが「うえまち一言自慢の風景」となるとどうしても紹介したくなり、自画自選で入れてしまいました。
 場所は一心寺の南側。茶臼山との間の谷のような坂道で、写真の突き当たりは動物園。左の石垣は茶臼山裾。右は一心寺です。写真には見えていませんが、突き当たりの向こうに通天閣が見えます。
 推薦の理由は、実はこの坂道がSの字を2つつないだ形の4つのカーブでできていることです。坂道は、上るにしろ下るにしろ高さが変わることによってどんどん風景が変わるところに面白さがありますが、曲線についても同じことが言えるわけで、多くのカーブした坂道が愛される理由は「立体的な風景の展開」にあると思われます。
さて、この坂道は江戸時代に地図が初めて描かれた最初からこの場所に記録されていました。当然、大坂夏の陣でこの辺りが激戦地となった時には両軍激突の谷であった可能性があります。このところ天王寺公園が美しく整備されるなかで、人気スポットの一つになるだろうと楽しみに注目しているところです。

(6)                            2016年1月号

墓地と坂のある街(小牟田竹二郎さん).jpg第8回夕陽丘写真コンテスト「墓地と坂のある街」(小牟田竹二郎さん)


 こんなアングルの「景色」は結構珍しいのではないでしょうか。小牟田竹二郎さん(淀川区)の「墓地と坂のある街」は、口縄坂の中ほどにある善龍寺さんの境 内墓地を斜め上から見た写真です。私が撮影場所を探し歩き、ようやく発見した場所はまたお寺の墓地でした。その浄春寺と善龍寺は坂道を介した「向こう三軒」といった関係にありますが、このあたりが地形の変わり目ということもあって、写真のような立体的風景になります。夕陽丘が持つ、地形的な入り組み加減と、近接し合う社寺群といった土地利用事 情を適切に説明するポイントが選ばれています。
 写真をよく見ると、新しそうな色合いの墓石も多く、またいわゆる無縁さんの古い墓石が片側に寄せられているなど、墓域の中での入れ替わりが進められている状況が分かります。配置換えを繰り返しながら、墓地が受け継がれていくお手本のような図柄です。
 墓地をきちんと用意することは、都市空間が永らえていく上での必要条件です。都市域がむやみに拡散しないように、限られた空間を上手に利用する方法の一端が、ここに示されているということでしょう。この写真は、夕陽丘を見直す上での、そんな風な少し異なる見方を私たちに教えてくれているようにも思われます。それにしても坂道の風景は面白いですね。

(5)墓地の風景           2015年12月号

1512一言自慢.jpg第8回夕陽丘写真コンテスト 佳作「噛まないでね」(山本藤雄さん) 2014年の「夕陽丘写真コンテスト」で佳作になった山本藤雄さんの作品「噛まないでね」。生國魂神社の南隣りにある齢延寺さんの大玄関近くにしつらえられているかわいらしいペットの合祀塚の景色のようです。花の木が影を落とす小山を取り巻くように、ペットたちの愛らしい姿と彼らを浄土へいざなうかのようにお地蔵さんの姿が並んでいます。
 核家族化する現代の家族の中で、「ペット」は今や家族同然。むしろ本来の家族に期待し難い「人生の伴侶」、あるいは何でも聞いてくれる話し相手、聞き上手の親友。当然、死後は丁重に供養してあげたい…。というわけで「ペットの供養合祀」はまことに今日的な風景となってきました。
 上町台地一帯はお寺と神社が圧倒的印象の町です。当然、お堂やお墓の風景が最も特徴的と言えるのですが、言うまでもなくお墓は道行く人々すべてにとって印象的というわけではありません。そこへ行くと、この「お墓」のかわいらしさはどうでしょう。しかも多くの人々にとって心温まる、小さいながら心ひかれる「ちょっといい風景」と言えるのではないでしょうか。それにしても良く出来てますねー。

(4)               2015年11月号

七坂賞「月・夜・坂」栗原正隆.jpeg七坂賞「月・夜・坂」(栗原正隆さん) お月さんを写真に撮るのは難しそうです。インターネットを繰っていると、別々に撮影した画面を重ね合わせる「多重露光」など、一画面に風景と一体化させる技法が紹介されていたりします。明るさやサイズの相違を踏まえた方法のようです。
 天王寺区の栗原正隆さんの「月・夜・坂」と題されたこの写真では、月をどんな方法で撮影されたかは分かりませんが、これに類するような工夫が組み込まれているのだろうと思います。その結果として、エッジの効いた三日月状の月が画面右上にきっちり捉えられています。
 周りの建物の窓明りや街灯などの照明光を集めた格好で、この写真の中心軸としての源聖寺坂、そして御影石舗装が浮かび上がっています。
 自らが光を放つ役割を果たしている月・窓・街灯とこれらの光に照らされた坂道や寺院の築地塀。つまり照るものと照らされるものが集まり合い、対照的に寺社境内地の樹木群は暗さをつくり出すことで光の明暗を強調し、これらが相まって一幅の光景が完成されていると思われます。「多重露光」といった手法がさらに加わっているとすると、この画面には実にたくさんの重ね合わせが隠されていることになります。
 坂道という場所では、高低差のある地形のなかでもとりわけ特徴的な風景を見せてくれるのですが、ここ夕陽丘では、さらに社寺や樹木群も主役級です。これらに、さまざまな光が融合する夜景が魅力的でないはずがない。そのことをこの写真は伝えてくれています。坂道の途中に母親と子ども2人がたたずんでいるのは、それらが楽しむべき場所であることを象徴してのことだと思わされます。

(3)一心寺本堂「天水受の天の邪鬼」2015年10月号

1510特別賞「強い意志」辻本晃.jpg第8回夕陽丘写真コンテスト ・ 特別賞「強い意志」(辻本晃さん)

 場所は一心寺。辻本晃氏作品「強い意志」、特別賞を受賞された「風景」です。
 本堂正面階段の両脇に大屋根のタテ樋(とい)が2本。その下に約1m角の石の「天水受け」があって、その四隅を坐高40㎝ばかりの力士風の像4体が支えているというものです。過重な石塊を背負わされてヒタスラ耐えている姿は「天の邪鬼(あまのじゃく)」つまり、天空に住んでワルサをする小鬼といわれています。仁王像や四天王像の足元に踏んづけられて表現され、仏教守護神の役目を表現するのに一役かっているというわけです。もともと古代の被征服民を表すともいわれていてチョットかわいそうにも見えます。
 1945(昭和20)年3月の空襲で境内が全焼し、以後21年間、境内は一部のお堂と仮小屋を除くと一面の焼け野原で、ただ本堂正面があった位置に2個の天水受けと四隅×2体つまり8人の天の邪鬼だけが残っていました。この焼け残った天の邪鬼と天水受けは本堂再建とともに新調されましたが、21年間はこの写真のように縁の下の「天の邪鬼」が一心 寺の主人公であり、まさしく一心寺を支えていた時代であったというわけです。「歴史の重層性がかいま見える風景」。夕陽丘のあちこちに点在している味のある自慢といえましょう。

(2)               2015年9月号

1509一言自慢 特別賞「猫の時間」西和生.jpg第8回夕陽丘写真コンテスト ・ 特別賞「猫の時間」(西和生さん)

 日差しが少し弱まった夕暮れの清水坂の風景です。3匹の猫が背を向けている写真ですが、凛とした姿勢は、彼らが精悍(せいかん)な表情を西方に向けているに違いないと思わせます。西日がつくり出す、御影石の照り加減や表面の小さな凹凸とぐんと伸びた猫たちの影が、タイトルの「猫の時間」にぴったりです。
 「夕陽丘」は、西日を観照し、瞑想(めいそう)する場所として古くから知られた土地です。この猫たちもまた、おのずから場所の霊力のようなものを感じ取っているかに見えます。
 ほぼ10m 程度の高低差を70mの距離のなかで上りきる清水坂は、急坂の一つといえますが、この写真で猫たちがたむろしているのはその間にいくつか配されている踊り場にあたります。自分たちが映えて写るよう、階段のステップがひと休みするフラットな箇所を選んでポーズを決めているのではないでしょうか。撮影された河内長野市の西和生さんには、猫たちの動きのそんな瞬間を見事に捉えていただいたと、お礼を申し述べたい思いです。
 少し気になるのは、この猫たちは飼い猫というよりは、いわゆる野良猫のように思えることです。彼らによるふん尿の放散やゴミ箱でのいたずら、騒音などに悩まされているケースが各地で報告されています。そんなことにならないように考えておく必要はありますね。

(1)               2015年8月号

1508第8回夕陽丘写真コンテスト特別 ニャンかあるぞ?.jpg第8回夕陽丘写真コンテスト・特別賞「ニャンかあるぞ?」(中原文雄) 新しいコラムを始めることにしました。

 一心寺ではここ7年、毎年、「夕陽丘写真コンテスト」を開催してきたのですが、「夕陽丘」という地域限定にもかかわらず、多くのアマチュアカメラマンから実に多様・多彩な作品応募を頂いています。つまり「上町・夕陽丘」は「絵になる風景」のあふれる町と言えそうなのです。
 ただ、その「絵」は京都・奈良など有名観光地のそれではなく、いわばカヤク飯の「カヤク」のようにチマチマしてはいるが実に味わい深い「寸景」とでもいえそうな、それでいて一言自慢したくなるような情景の集積…。そんな断片を切り取って「写真」にしていただいた作品を「入選作品展」だけで終わらせるのはモッタイ無い…。というわけで作品の写真に一言、解説を添えて、表題のように「一言自慢の景色」として紹介していこうというわけです。

 さて、その一として吹田市の中原文雄さんが応募した、いわば「ハルカスのある路地」。日本一の高さ300mを誇る、世界的建築家シーザー・ペリー基本デザインの超高層建築が 何とも伝統的な「ろうじ」と重なって共存している風景はチョット自慢したくなる風景です。ちなみにこの「ろうじ」の主である旅館「葆光荘(ほこうそう)」さんは、来阪の外人さんにム チャ大人気の由です。皆さんもこんな路地風景を探してみてください。

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『うえまち』について

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